「当たっていますよ。
先週もストレートが出たと聞いております。」
電話口に、彼はこう言った。
ナンバーズが当たらない日々が続くと、
当然ながら軍資金が底をつきはじめる。
どうやら人間は追い詰められると
思考能力がゼロになる生き物のようだ。
雑誌の巻末ページに、あるナンバーズ4専門の
有料予想会社の広告が見開き2ページに渡って掲載されていた。
そこにはこう書いてある。
「ナンバーズ4のボックス当選確率4〜5割!
ストレート当選も夢ではありません!」
・・・これだ、と思った。
その予想会社は、厳選予想数字をファックスで
教えてくれるという、当時は画期的なシステムだった。
謳い文句は先の通り。
予想数字はおよそ50通りとある。
頭の中の計算はこうだ。
仮に、毎回50通り(1万円)をすべて買ったとしても
当選確率は5割なので、ボックス買いすればプラス収支になる。
こんな曖昧な収支計算をしていた。
・・・
気がつくと、私はその広告の
お問い合わせ電話番号のボタンを押していた。
「当たっていますよ。
先週もストレートが出たと聞いております。」
私の質問に、即座に男はそう答えた。
・・・ストレート当選。
その美しい響きを聞いてからは、
気がつくと銀行のATMの中に現金を押し込んでいた。
やはりナンバーズは
専門の会社で予想してもらうのが一番だと思った。
わけのわからない電卓よりも、人間の頭脳に勝るものなし。
・・・しかし、送られてきたファックス用紙を見て愕然とした。
「おかしいですねぇ、
当たるとは聞いているんですが。」
「えーッ?こんなにたくさん出目があるの?!」
手元には、すでにナンバーズ4の
マークシート用紙を10枚用意してあった。
あとは送られてきた予想数字をそのまま書き写すだけ、
そう考えていた。
ところが、ファックス用紙には明かに
50通り以上の予想数字がズラズラと書かれていた。
このファックス用紙には、「A」・「B」・「C」の欄がある。
重要度が一番高いのは、「A」という仕組みだ。
そして問題は、その「A」だけの
予想出目が30通り以上あるということ。
「B」の欄にも30通り以上の出目があり、
この時点で70通り以上の予想出目がある。
「C」の欄はすこし少なく、25通りとすこし。
つまり、このファックス用紙の出目には
合計100通り以上の予想出目が書いてあるということだ。
「え、Aだけ買えばいいよね・・・?」
だれもいない部屋の中で、
ひとり自分自身に言い聞かせた。
もう一度ファックス用紙に目をやる。
「A」が一番重要度が高いのだから
それさえ買っていればいいのだと自分を納得させているが、
すこしだけ動揺している自分がいた。
「・・・だまされたかな?」
口には出ない、心の声がそう言った。
でも、大丈夫。
的中率が5割だから、支出を収入でカバーすればいい。
この時点での私は、まだまだ希望に満ちていた。
・・・
「おかしい。もう9回もハズれているよ・・・。
軍資金だって限りがあるんだし、これはちょっとマズいかも・・・。」
この有料会員になった時代は、
まだナンバーズが週3回(月12回前後)の抽選だった。
有料予想の配信回数は毎抽選回ではなく、
8抽選回分の配信予想を一括で買うというシステムだ。
その8回分の「回数券」は、
連続で毎抽選回に配信してもらってもいいし、
小分けにして使ってもいい。
ハズれた9抽選回のうち、1度だけ見送った回があった。
「おかしいですねぇ、当たるとは聞いているんですが。
ただ、継続して買ってもらわないとダメですよ。」
私は電話口にいつも出る
この受け付けの男が生理的に苦手である。
この男に、「今回は予想ファックスを送ってください。」
と電話で伝えるシステムなのである。
その男に予想出目に対する苦言を申したのだが、
毎回のように、のらりくらりとかわすのが常套手段である。
冗談じゃない。
毎回100通り以上の予想数字を送っておいて
一度も当たらないなんて、お金を払った意味がないではないか。
ナンバーズ4のボックス当選組み合わせは
約700通りにすぎない。
そのうち、確率的にまず出ないであろう組み合わせを除けば、
逆に100通りで当たらないほうがおかしい。
100歩ゆずって、9回ハズして10回目で当たる予想方法なら、
自分で予想したほうがマシじゃないか。
さらに言うと、この会社のストレート的中の
高さを謳うのには“からくり”がある。
ファックス用紙の出目に「0632」という予想があったとしたら、
そのとなりに「0362」・「0236」のように、
3通りくらいの組み合わせ予想出目が書いてあるのだ。
これはぜんぶの出目ではないが、
何個かの予想出目のとなりに「補足」として書いてある。
・・・
私はうなだれていた。
あとには引けない自分がいて、
8回分ぜんぶの配信を使い切ったあとに
継続して予想配信の料金を振り込んだ。
だが、10回目の予想もハズれ。
・・・ついに、私は軍資金のすべてを使い切った。
当然である。
週に2万円以上のお金を
ナンバーズ4のためだけに使ったわけだから。
「様子を見よう。クジを買わないにしても、
当たるまで様子を見てみよう。
とにかく・・・今は、それくらいしかできない。」
その後、確か14回目ほどで
ボックス当選をしていたのを憶えている。
・・・
2年後、ふたたび私はこの会社の有料会員になった。
受け付けの男、システムともに
2年前のあの日とまったく変わっていなかった。
実はこのとき、
ある別のナンバーズ有料ファックス会員にもなっていた。
そして、この2つの有料会員を境に、ナンバーズ4に関しては、
私は他力での予想に終止符を打った。
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